- 推定相続人の放棄について知りたいとき
- 推定相続人から、暴力や虐待を受けているとき
- 他の推定相続人が、被相続人に対して、暴力や虐待を加えているとき
- どんなときに排除されるのか知りたいとき
- 廃除されたときの影響について知りたいとき
被相続人に対して、いつも暴言を吐いたり、暴力に及んでいたような相続人でも、他の相続人と同様に相続するのでしょうか?
なんとか相続から廃除することはできないのでしょうか?
このページでは、推定相続人の廃除の制度について説明します。
下記のような場合にお読みください。
1.推定相続人の廃除とは?
推定相続人の廃除とは、相続の欠格事由に該当するほどではないけれども、被相続人との相続的共同関係を現に破壊していたり、破壊する可能性がある程度の事由があった場合に、被相続人の請求により家庭裁判所が審判によって、その相続権を喪失させるものです。
廃除は、自ら行うことも、遺言で廃除することもできます。
2.廃除の効果
廃除されると、その推定相続人の相続権がはく奪されます。
廃除は、被相続人との関係での推定相続人の相続権を排除するもので、代襲相続の原因になります。例えば、長男を排除したときに、長男に子供がいれば、その子が代襲相続します(民法887条2項)。
3.廃除の基準
廃除の要件は、虐待・重大な侮辱・著しい非行とされています。これらは切り離しにくいので、これらを区別しないで廃除の理由としていることも多くあります。
なお、排除の要件に当たるかどうかは、排除をしようとする者の主観だけで決められるものではなく、「相続人がそのような行動をとった背景の事情や被相続人の態度及び行動も斟酌しなければならない」とした下級審判例もあります。
従って、一方が重大な侮辱をうけたと感じていても、侮辱となる行動に至った理由が放棄しようとする人自身にも責任があるような場合は排除の要件を満たさないことがあります。
4.年度ごとの廃除の認容数・認容率
裁判所の公表している司法統計によると、直近3年間で認容、却下などされた下記のとおりです。
年度によって大きく開きがありますが、廃除の申立て自体が平均しても年間200件程度でそれほど多くありませんが、司法統計からは推定相続人の廃除が認めれれることはおおよそ20%程度で、認められないことの方が圧倒的に多くなっています。
従って、相続人の廃除をしようとするときは、推定相続人の廃除に至るに足りる十分な資料を残すなど、十分な準備をする必要があるとも言えます。
5.裁判例
5-1.虐待、重大な侮辱が問題とされた事例
平成4年12月11日 東京高等裁判所(判例時報 1448 号 130 頁)
■廃除対象者は、小学校の低学年のころから問題行動を起こすようになり、中学校及び高校学校に在学中を通じて、家出、怠学、犯罪性のある者等との交友等の虞犯事件を繰り返して起こし、少年院送致を含む数多くの保護処分を受け、更には自らの行動について責任をもつべき満18歳に達した後においても、スナックやキャバレーに勤務したり、暴力団員と同棲し、次いで前科のある暴力団の中堅幹部と同棲し、その挙げ句、同人との婚姻の届出をし、その披露宴をするに当たっては、被相続人らが右婚姻に反対であることを知悉していながら、披露宴の招待状に招待者として被相続人の名を印刷して抗告人らの知人等にも送付するに至るという行動に出たものである。そして、このような相手方の小・中・高等学校在学中の一連の行動について、被相続人らは親として最善の努力をしたが、その効果はなく、結局、廃除対象者は、被相続人ら家族と価値観を共有するに至らなかった点はさておいても、右家族に対する帰属感を持つどころか、反社会的集団への帰属感を強め、かかる集団である暴力団の一員であった者と婚姻するに至り、しかもそのことを被相続人らの知人にも知れ渡るような方法で公表したものであって、廃除対象者のこれら一連の行為により、被相続人らが多大な精神的苦痛を受け、また、その名誉が毀損され、その結果抗告人らと相手方との家族的協同生活関係が全く破壊されるに至り、今後もその修復が著しく困難な状況となっているといえる。そして、相手方に改心の意思が、被相続人らに宥恕の意思があることを推認させる事実関係もないから、被相続人らの本件廃除の申立は理由があるものというべきである。
5-2.著しい非行が問題とされた事例
平成19年10月31日 福島家庭裁判所(家庭裁判月報 61 巻 4 号 101 頁)
■被相続人(母)が介護を要する状態にもかかわらず、被相続人の介護を妻に任せたまま出奔した上、父から相続した田畑を被相続人や親族らに知らせないまま売却し、妻との離婚後、被相続人や子らに自らの所在を明らかにせず、扶養料も全く支払わなかったことが、相続的共同関係を破壊するに足りる「著しい非行」に該当するとされた事例。
平成20年10月17日 神戸家庭裁判所伊丹支部(家庭裁判月報 61 巻 4 号 108 頁)
■遺留分を有する廃除対象者(長男)は、浪費を重ね、被相続人の財産の大半を浪費した上、被相続人は、相手方の債権者らから、弁済につき、自宅で面会を強要されたり、電話による支払を求められたりし、心理的にも大きな痛手を被った。このため、被相続人は、遺言書で、相手方を推定相続人から廃除する旨遺言をしていたところ、廃除対象者の行為は、客観的かつ社会通念に照らし、相手方と被相続人の相続的協同関係を破壊し、相手方の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものであり、民法892条の「著しい非行」に該当するとされた事例
平成23年5月9日 東京高等裁判所(家庭裁判月報 63 巻 11 号 60 頁)
■養子である相続対象者について推定相続人から廃除する遺言をしていたところ、平成10年から10年近くの間、被相続人が入院及び手術を繰り返していることを知りながら、年1回程度帰国して生活費等として被相続人から金員を受領する以外には看病のために帰国したりその面倒をみたりすることはなかったこと、被相続人の廃除対象者の母に対する建物明渡訴訟及び廃除対象者に対する離縁訴訟が提起されたことを知った後、連日被相続人に電話をかけ、被相続人が体調が悪いと繰り返し訴えるのも意に介さず長時間にわたって上記各訴訟を取り下げるよう執拗に迫ったこと、信義に従い誠実に訴訟を追行すべき義務に違反する態様で離縁訴訟をいたずらに遅延させたことなどの廃除対象者の一連の行為を総合すれば、これらの行為は民法892条にいう「著しい非行」に該当するとした事例
5-3.双方に該当するとされた事例
平成17年10月11日 大阪高等裁判所(家庭裁判月報 58 巻 6 号 65 頁)
■長男である廃除対象者が、被相続人に対して繰り返し暴力を働き,被相続人を虐待し、被相続人が精神障害ないしは人格異常である旨の主張等を続け,かつ相手方に帰属する郵便貯金から相手方に無断で合計3582万1108円の払戻しを受けている事例で、これらの行為により相続的協同関係は破壊されるに至ったことは明らかであり、上記行為は、申立入に対する「虐待、重大な侮辱」及び「著しい非行」に該当するとして、その申立てを認容した事例。
平成2年8月10日 岡山家庭裁判所(家庭裁判月報 43 巻 1 号 138 頁)
■長男である廃除対象者は、父から現金等を持ち出して自己のために費消を重ねた上、父らに無断で、通信販売を通して高額の物品を購入する等し、父ら現金持ち出しや通信販売による物品購入等について相手方に注意をすると、相手方は暴力をふるったり、会社の金を遺い込んだ金銭を弁償させたり、行方不明になった後、廃除対象者のサラ金業者の連絡に対応するなどしなかった事例において、申立人と相手方の間の家族的共同関係あるいは相続的共同関係が相手方の行為によって破壊されているとみるのが相当であり、民法892条に定める被相続人に対する「虐待、重大な侮辱」又はその他「著しい非行」があるとされた事例
5-4.廃除が認められなかった事例
平成2年5月16日 名古屋高等裁判所金沢支部(家庭裁判月報 42 巻 11 号 37 頁)
■嫁姑問題により抗告人が受けた暴行・傷害・苦痛は、相手方夫妻だけに非があるとはいえず、母にもかなりの責任があるから、その内容・程度と前後の事情を総合すれば、いまだ相手方の相続権を奪うことを正当視する程度に重大なものと評価するに至らず、結局廃除事由に該当するものとは認められない。
平成8年9月2日 東京高等裁判所(家庭裁判月報 49 巻 2 号 153 頁)
■推定相続人の虐待、侮辱、その他の著しい非行が相続的共同関係を破壊する程度に重大なものであるかの評価は、相続人のとった行動の背景の事情や被相続人の態度及び行為も斟酌考量した上でなされなければならないが、、廃除対象者の力づくの行動や侮辱と受け取られるような言動は、嫁姑の不和に起因し、廃除対象者夫婦と被相続人夫婦の双方に責任があり、また、廃除対象者は被相続人から請われて同居し、同居に際しては改築費用の相当額を負担し、家業の農業も手伝ってきたこと、被相続人も昭和58年から死亡するまで抗告人との同居を継続したことなどを考慮すれば、抗告人と被相続人は家族としての協力関係を一応保っていたというべきで、相続的共同関係が破壊されていたとまではいえないから、抗告人と被相続人の感情的対立を過大に評価すべきでなく、抗告人の前記言動をもって、民法第892条所定の事由に当たるとすることはできない。
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